ξ 小説 『駈込み訴え』 ξ

sou

2011年02月09日 12:58



今回もやはり昨年のことだったのですが、NHK BS2で、『太宰治短編小説集』という番組をやっていました。

私は学生の頃は小説を読むのも好きで、よく読んでいました。
太宰治のでは、『人間失格』を読みましたが、正直あまり面白くはありませんでした。

しかし、今回、この番組を見て、太宰治の小説って、面白いなーって思いました。
NHKの番組の映像、演出もすごくよかったのも大だと思います。

その中で特に面白いなと思った作品の一つが、この『駈込み訴え』です。

ネットで検索したら、私以外にもすごくよかったという感想がとても多かったので、「おお^^」という感じでした。w

まずは、作品の終わりの方の一部を紹介したいと思います。






「私には何やら、あの人の秘めた思いが分かるような気持ちになりました。

 あの人は・・・寂しいのだ。

 私は突然、強力な嗚咽が喉に突き上げてくるのをおぼえた。
 やにわに、あの人を抱きしめ、共に泣きたく思いました。
 
 あなたは、いつでも優しかった。
 あなたは、いつでも正しかった。
 あなたは、いつでも貧しい者の味方だった。

 お許しください、あなたを売るなんて、なんという、私は無法な事を考えていたのでしょう。 
 もう今は嫌だ。

 ペテロも来い、ヤコブも来い、ヨハネも来い、みんな来い、
 我らの優しい主を護り、一生長く暮らしていこう。

*********************************

 ああ、そのときの感触は。
 そうだ、私はあのとき、天国を見たのかも知れない。
 みんな穢れのない清い体になったのだ。

*********************************

 はッと思った。
 やられた。
 私の事を言っているのだ。

 私があの人を売ろうと企んでいた数刻以前までの暗い気持ちを見抜いていたのだ。
 でも、その時は違っていたのだ。
 断然、私は違っていたのだ。
 私は清くなっていたのだ。
 私の心は変わっていたのだ。。。

 ああ、あの人はそれを知らない。
 それを知らない。
 違う。
 違います。。。

 と、喉まで出かかった絶叫を、私の弱い卑屈な心が唾を飲み込むように飲み下してしまった。

 言えない。
 何も言えない。
 ええ、だめだ
 私はだめだ
 あの人に心の底からきらわれている。

 売ろう。
 売ろう。
 あの人を、殺そう。
 そうして、私も共に死ぬのだ。

 と、前からの決意に再び目覚め、私は今は完全に、復讐の鬼になりました。」

           (NHK BS2 『太宰治短編小説集』』「駆込み訴え」より引用)

映画・漫画・アニメ・本等